5月18日、北京オリンピックの出場権を賭けたアジア大会がタイで開催され、注目していた男子K1は矢澤一樹選手が有力候補ひしめく先輩たちを抑えて優勝した。おめでとう。中学を卒業してすぐに御岳での一人暮らしという、およそ万人向けとは言いがたい挑戦をしたご両親にも乾杯しなくては。
15歳から18、19歳といえば、カヌーより楽しいことがたくさんある年頃である。ゆえに御岳での5年間、彼がカヌーに打ち込めたのは奇跡的というより外ないが、俊平さんや太郎さんが近くにいてくれたことが奇跡を現実にした要因であったということも記憶しておきたい。
むろん、御岳にくれば誰もが強くなれるわけではない。毎日上から練習を見ている私には、誰が一番頑張っているかは、一目瞭然である。この一年間で合同練習以外に最も多く漕いでいたのは、一輝に他ならなかった。
「練習は決して嘘をつかない」。という言葉を思い出した。これはスポーツ全てに言えることだと思うが、この言葉は、練習した分だけ強くなれるという意味ではないし、練習した成果が必ず結果に現れるということでもないと理解している。レースはそんなに単純なものではないのだ。ただ、練習の内容がその選手の全てになることは間違いないと思う。レースで勝つために必要な「精神力」というファクター一つとっても、分解してみれば、集中力、闘争心、平常心、向上心、冷静な計算、勇気ある決断力などに分けられ、それぞれを緻密な計算やアイデアに基づいて計画的に鍛えていかなければ、練習したことも嘘のようにできなくなるものだ。
御岳での練習やレースを見ているので、選手たちの実力は知っているつもりだ。だが、公式戦での戦いぶりは別物だ。公式戦を観る機会が少ないので確かなことは言えないが、ビデオを観ている限り、一輝はこの一年で最も成長した選手の一人であろう。少なくとも一年前であれば、誰もが代表争いは修司、翼、太郎の3選手に絞られると思っていたに違いない。だが、4月の富山、NHK杯を重ねて観るに、考えを改めずにはいられなかった。一輝のレース戦略は本物である。完全に自分の「型」をモノしている。彼のコミカルな顔に惑わされることなかれ(冗談)、彼は19歳にして非常に冷静でクレーバーな試合運びができる選手に成長している。
だが、「世界ではこのやり方では通じない」。とは太郎の言葉。決勝に届くか届かないかの実力では、日本でのレースのような「王者の戦法」は難しいのも確かだろう。
ただ、北京への出場は、4年後のロンドンでメダル争いができる選手になるためにも、最高の経験になることは間違いない。4年後に向けて、もうひと化けして欲しいと思うのが正直な親心だ。
そのためにも、太郎さんにはあと4年頑張っていただいて、一輝を中心としたチームジャパンを牽引してもらいたい。私も側面からできる限りのことはしたいと決意を表明する。
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